月夜見 “立待月”
         〜大川の向こう

 

早くも10月に入ったなぁと、大人たちは嘆くように口にする。
中学や高校のお兄さんお姉さんが衣替えしたり、
そういや、朝晩はずんと涼しい…を通り越して
寒いくらいにもなったけど。

 「早いかなぁ?」

夏休み終わったの、
何かずっと昔みたいな気がすんだけどなって、
小さな坊やがかっくりこと小首を傾げ。
そこへ居合わせた大人らは、
半分ほどが、子供には1日1日が長いからなぁと苦笑をし、
残りの半分は、

 “…チッ、生意気なくせして可愛いじゃねぇか。/////”

と、見当違いな感慨に胸を温めたとのことで。(笑)

 それはともかく。

衣替えにはまだ微妙に縁がないというか、
パジャマは長袖へ変わったが、
昼間日中のお洋服は、
気がつきゃカーディガン代わりのフードつきシャツを
どっかへ脱ぎ忘れてしまうのがお決まりな。
まだまだ平熱は高い年頃です…の、
お子様ルフィさんにしてみれば。

 「10月ってったら、あ、そーか うんどーかいだvv」

9月が長かったのはあんまり行事がなかったからで。
他のところじゃ9月にうんどーかいってところもあったかも知んないけど、
あと、遠足とかもあったかも知んないけれど。
この里の小学校では、うんどーかいは10月だもんな、うんうん…と。
やや大仰ながらも、
一端の大人のように納得しているルフィさんだったりし。

 「そーか、九月は 連休あったけど
  特にどっか行くって行事はなかったもんなぁ。」

だって、敬老の日も秋分の日も、
どっかへ何かしに行く土地柄じゃあない。
お年寄りへのお祝いもお墓参りも、
出掛けるまでもなくの地元だというお家が大半だから。
親戚が訪のうケースはあっても逆は滅多にないし、
そんな事情から、
どっかへ行楽に行くというのも九月には例がない。

 ……ちなみに、

敬老の日といっても、
父方のお祖父さんは外洋航路の貨物船を運行させてて忙しく。
あとはと言えば、
やはりまだまだ現役ばりばりの
その人を祝ったら張り倒されんかという
頼もしい指物師のおじさまくらいしか
身近な高齢者に心当たりがないルフィさんは。
ご近所のお年寄りへお赤飯やおまんじゅうを配る
町内会の婦人部のおばさんたちの
お手伝いをして過ごしたそうですが、

 それもともかく。

 「お月見も出来んかったしよ。」

縁側に座り、あんよをぶらぶらさせながら、
ぷぷいと柔らかな頬を真ん丸に膨らませる坊やなのへ、

 「まあそれは台風が来たんだからしょうがない。」

全国的に無理だったのが今年の“十五夜”で。
結構な威力の台風が駆け抜けてったのだし、
大きな川の中州の里という立地の此処は、
特に警戒しなくちゃならずで。
よって“お月見”どころじゃなかったのだが、

 「それにだ。
  お前、ゾロが来てたんで
  ずっとはしゃいでなかったか?」

赤髪のお父さんからずばりと指摘され、

 「う〜〜〜っとぉ。/////」

図星だったか、たちまち“あやや…”と
語調が曖昧の腰砕けになってる里の王子だったりし。

 というのも

台風だとなると、大人らは一丸となって
土嚢積みやら堤防の見回り、
発電機の確認や炊き出しの準備など、
いざという時のための警戒へ忙しくなる土地柄で。
そんな中、意外なことだが、
実は男手がいなくなるのがルフィのお家だ。
川を使っての運送業、回船業なんてのを手掛けている関係で、
ぎりぎりまで荷物を運んでいたり、
いざ台風が接近ともなれば
係留した船の監視もせにゃならぬ。
また、頼りになる荒くれさんたちが揃っておいでなので、
里のあちこちを警邏する自警団へ
若いのも 大おとなも
双方ともに大方が組み込まれてしまうため、
肝心な自宅は手薄になるのだが、

 『ルフィ、マキノさん、無事か?』

自宅のほうは、それこそ道場の門弟さんがいるのでと、
こちらの応援に剣豪少年が来てくれるのもいつもの手筈。

 『ゾロ、何して遊ぼうかvv』

雨や風が強くなったから、
雨戸が飛ばないか、居回りで何か飛ばないか、
窓が割れたりしやせぬかという用心のために、
嵐の中、わざわざ足を運んでくれたお兄さんだというに。
遊び相手が来たと言わんばかりの
“わぁい♪”と喜んでしまうのだから世話はない。

 「まあ、正式な月見じゃないけどよ。」

大人のくせに小さな坊やをからかう誰かさんとは違い、
えっとぉと理科の図録を引っ張り出した剣豪さん。

 「昨日も“十六夜”って言って
  月見していい満月もどきだったらしいし、
  今日のも“立待月”って名前がある、
  やっぱり見ごたえのある月だそうだぞ?」

そんな風になだめて差し上げる気の回しようであり。

 「ホントか? じゃあ、今日お月見したいvv」

わぁいわぁいvvとの喜びようにも拍車が掛かった坊やなのへ、
周囲の大人たちも、ついつい相好を崩してしまう他愛なさ。
今からウサギさんのように跳ねてる坊やですが、
あんまりはしゃいで肝心な宵に眠くならないようにね?





  〜Fine〜  12.10.02.


  *ちなみに、今朝(10/03)の朝は、
   西側の天空にお月様があって、そして東の空から朝日が上る中、
   隣りんチの目覚ましに叩き起こされたもーりんです。
   とっとと起きんかい、寝ぼすけさんっ

   とて、今年はキンモクセイが遅いK市です。
   衣替えと赤い羽根募金とキンモクセイは1セットだったのにな。
   …と、日記に書けばいいことをついつい思い出してしまった、
   久し振りの“大川”です。
   相変わらず、余計なこと言って
   坊やの機嫌を損ねているシャンクスパパですが。
   大雨の中での陣頭指揮はなかなかカッコよかったそうですよ?
   身内ほど知らない、働くパパのカッコよさ、ですね。

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